下らない創作:

道ばたにしゃがみ込んで泣いている少年がいた。
通りすがりではあったが、何となく声をかけてみる。
少年は最初、しゃくりあげるばかりで言葉を発さなかったが
私が傍にいる安心感からか、
自分の不幸を吐き出す相手を見付けた安堵感からか
少しずつ落ち着いていった。
 
もうほとんど乾き切った瞼と頬を一所懸命に擦りながら
自分の飼っていた小鳥を両親に殺された、と。
きっとその場面を思い出したのであろう、また大粒の涙を零しながら
真っ白なビニール袋に入れられたそれの残骸を
これから公園に埋めに行くと教えてくれた。
 
少年が落ち着いて移動してくれれば良かっただけだから
私は気を付けて土を掘るように言い、その場を去った。
 
しばらく歩いてから
どうやって小さな命を奪われてしまったのか、
それを訊けば良かったかなと考え
そうしてからやっと、少年の精神は大丈夫であろうかと思った。
 
少年が向かったかどうかはわからないが
ひとまず近くにある公園に足を向けた。
いなかったらいなかったで煙草でも吸って、と考えながら歩いて行った。
公園に入り誰もいない砂場に置き去りにされたシャベルを見付けた。
私はそれを借り、片手で煙草の用意をしながら
散った桜の花びらが雨を吸い泥と化しているのを横目で見た。
そしてその先に、果たして少年はいた。
 
少年の指は土と砂利で汚れている。
ビニール袋を地面に起き、下を向いて
「雨に濡れて地面が掘れない」先ほどよりは静かに泣いていた。 
 
シャベルを持っているよ、だからもうちょっと木の傍に植えてあげよう
確かそんな事を言って少年と一緒に近くの桜の木の下にしゃがみ
私は無言で土を掘り始め
その間少年も無言で、私が鳥の残骸をくれ、と言うまで黙り続けた。
 
「はい」鳥だったものを持つ少年の手が震えていた。
私はそれを受け取り、深く掘った穴の中へ静かに下ろし、
そしてゆっくり土をかぶせた。
ありがとう、と本当に小さな声で呟いた後、少年はまた大きな声で泣き出した。
 
「本当は鳥に触るのが怖くて埋められなかった」
 
そう言いながら泣いていた。
目に見えるくらい、自責の念や後悔などの負の感情で一杯になっている。
私はそのままさようならを言わず、少年をその場に置いてシャベルを返し、去った。
 
 
私はあの時何と言って少年を慰めるべきだったのだろうか。
知らない少年とは言え、脆く壊れそうな命を目の前にして抱きしめるべきだったのか?
それとも今まで培って来た経験から生まれる嘘の言葉を大量に並べて
一瞬の許しを与えれば良かったのか?
 
 
 
 
「屍骸に触れる事が怖くて埋められなかった」って?
そんなの最初から知ってたよ。
 
 

 
だから私が埋めに行ったんじゃないか。